講道館柔道に対する提言
佐藤宣践
若き時代「人生80年」と思い歩み続けてきたが、いつしか80歳の壁を越え、どこの柔道会場に行っても私より年長者は数人しかいない状態である。今回は、講道館柔道九段として巻頭言を依頼されたが、「九段柔狂老人」からの提言として、参考にしていただければ幸いである。
全日本柔道選手権大会(天皇杯)について
最近、全日本選手権大会の権威や価値が下がってしまっているのではないかと良く耳にする。その対策として次の3点から検討してはどうだろうか。
⑴ 日程について
現在のトップ選手にとって最大の目標はオリンピック、世界選手権大会である。アスリートファーストの立場で言えば、大会日程を国際柔道連盟のカレンダーに合わせてはどうだろうか。1948(昭和23)年から始まった全日本選手権大会は、嘉納治五郎師範の命日である5月4日に合わせて開催された大会であり、現在は4月29日が開催日として固定されている。伝統を尊重することが重要であることは重々承知しているが、トップ選手が出場しやすい日程に調整することで、真の柔道日本一を決めるにふさわしい大会になるのではないだろうか。
⑵ ルールについて
体重無差別で争われる全日本選手権大会で現在採用されているルールは、国際柔道連盟試合審判規定(IJFルール)である。IJFルールは元々体重別という発想から作られたルールである。体重無差別の大会は、「小能く大を制す」「柔能く剛を制す」という柔道の原点・魅力がより多く含まれているから面白い。そのためには小さな者が大きな者と対等に戦えるルールに戻した方が良いと考える。講道館柔道の決まり技は投技68本、固技32本、計100本あるが、直接相手の下半身を攻撃する朽木倒、掬投等の投技は、現行のIJFルールでは反則技になる。そうであるならば、IJFルールではなく講道館柔道試合審判規定に戻した方が、小さな者の攻撃の幅が拡がり、より戦いやすいルールとなるのではないか。現在、全日本選手権大会は、オリンピックや世界選手権大会の選手選考となる試合から除外されているのだから、思い切った舵取りも可能なのではないだろうか。
⑶ 大会の折、観客にアンケート調査をしてはどうだろうか。大会実行委員会の検討資料として活用できるし、主催者側と観客側との両面の考えを知ることが必要だと思う。
抜群昇段制度と紅白試合の活用について
講道館には、紅白試合において規定の条件を満たした場合、抜群即日昇段の制度がある。また最近では講道館杯全日本柔道体重別選手権大会の優勝者にも、段位の上限はあるものの抜群昇段が認められるようになった。
昨今、昇段へのモチベーションが以前に比べ低くなっていると感じるが、この抜群昇段制度の活用はできないものだろうか。例えば、中学生、高校生、大学生、社会人(実業団・警察)等の全国大会個人戦で優勝した場合は、講道館杯と同様、段位の上限を設けつつ、抜群昇段を認めることはできないだろうか。現在ない制度を新たに作ることは大変であろうが、修行者に昇段することの意味と意義を理解させる1つの方法にはならないだろうか。各人が努力し、頑張れば昇段できるという機会を多く作ることで、柔道の普及・発展につながるのではないかと考える。また新しい試みとして講道館(本館・大阪)で行われている紅白試合について、春・秋のどちらかに軽・中・重3階級の体重別導入を検討してはどうだろうか。それによってもっと多くの軽・中量級の選手たちが試合に挑戦できるのではないかと思う。柔道の普及を考えた時、その機会を作ることも大切であると考える。
全柔連長期育成指針について
全日本柔道連盟は「長期育成指針」を打ち出し、各段階(年齢層)での育成方針を明確化する試みを行った。競技団体が、今までなされてこなかった具体策を示したことで注目されているが、講道館の育成方針こそ、具体的に示していく必要があるのではないか。具体的各論について全柔連、講道館を軸にすべての柔道人がそれぞれの立場で検討していったら良いと思う。
マスメディア対策について
現在柔道はTV、新聞、雑誌等における露出が非常に少ない。マスメディアへの露出が増えることで、見る側の柔道に対する興味が高まり、選手たちの「ヤル気」も増大するであろうから大いに考えるべきである。また、講道館が発行している雑誌『柔道』をもっと有効に活用するために、少なくても高段者、特に指導者の必読書になるような編集内容、販売・配布方法をもう一工夫してはどうかと考える。
以上、柔道人口が激減していく現在、講道館事業に関することを軸に提言を論じた。柔道普及発展のため、全柔道人がそれぞれの立場で熱く考え、行動し、力を結集することを祈念してやまない。
(日本傅講道館柔道九段)








