愛媛の柔道を次世代へつなぐ
大西誠(愛媛県柔道協会会長)
はじめに
令和2年6月に図らずも愛媛県柔道協会会長を拝命してから3期6年が過ぎようとしています。この中で少子高齢化と急速な人口減少という社会構造の大きな変化を強く実感して参りました。かつては多くの子どもたちで賑わっていた道場も、参加者の減少や指導者不足によって、閉鎖や今後の存続が危ぶまれる状況にあります。柔道人口の減少は単に競技者数の問題にとどまらず、指導者の確保、大会運営、さらには地域コミュニティーの活力にも影響を及ぼす重要な課題です。加えて中学校部活動の地域移行という大きな制度改革が進む中、私たちは従来の枠組に安住することなく、新しい柔道の在り方を構築していかなければなりません。
愛媛県柔道協会では柔道の普及啓発(すそ野拡大と一度柔道から離れた方々の呼び戻し「カムバック柔道」)、特に女性(未経験者を含む)への柔道の敷居を低くした、道場へ健康作り目的で気軽に足を運んで貰う活動に注力してきました。令和5年に試験的に始めた「えひめ女子柔道交流会」は、愛媛県柔道協会の4名の女性理事(理事総数は18名)が中心となって、柔道未経験の幼児から保護者の方々にも口コミで声掛けの輪を広げて(もちろんSNSでも積極的に告知PRはしています)、「怪我をしない・健康増進・裸足で畳に触れる・笑顔で柔道場を走り回る」をコンセプトとして着実に実績を上げて来ていると自負しております。
今後の取り組み
第1に取り組むべきは、継続して行う普及啓発のための「柔道との出会いの創出と継続出来る環境づくり」です。子どもたちが柔道に触れる機会そのものが減少している現状を踏まえ、幼児期から小学校低学年を対象とした体験教室や親子柔道教室の開催が必要だと思います。現在実施中の「えひめ女子柔道交流会」を、更にブラッシュアップし進化させたいと思います。柔道は「礼に始まり礼に終わる」武道であり、相手を尊重する心や自己を律する姿勢を育てる教育的価値を持っています。勝敗のみを追い求めるのではなく、人間形成の場としての柔道の魅力を広く発信し「強くなる柔道」に加えて「成長できる場」であることをしっかりと伝えていくことが、長く柔道を続けて貰うための鍵だと思います。また、安全対策の徹底や指導体制の透明化を図り、安心して子どもを預けられる環境作りと事故防止のための受身指導の充実・指導現場のコンプライアンスの徹底を図り、「安全・安心な柔道」を愛媛県柔道協会全体で推進したいと思います。
第2に取り組むべきは、中学校部活動の地域移行への「主体的かつ計画的な対応への協力」です。学校単位での部活動から地域クラブへと移行する流れは、柔道界にとって大変大きな転換期です。教育委員会・学校・既存の道場との連携を強化し、地域の実情に応じた持続可能な運営モデルの構築に、協会としても全面的に協力しなければならないと思っています。具体的には、地域の現状に合せた各市町村の教育委員会による推進が主体となりますが、協会としては行政と協議を重ねながら持続可能な形を模索し、何より学校に柔道部が無いから柔道を諦める生徒が出ない様に努めていきます。
第3に取り組むべきは、「多世代が関われる柔道環境の構築」です。人口減少社会においては、生涯スポーツとしての柔道の可能性を伝え広げることが重要です。健康づくりや介護予防の観点からみた柔道エクササイズ、形の稽古を中心としたストレッチメインのシニア向けプログラム、現在注力している女性や初心者対象のクラスの充実など、多様なニーズに応える取り組みの推進が柔道界では必要です。競技志向だけではなく、「楽しむ柔道」「学ぶ柔道」「支える柔道」といった多様な関わり方を提示することで、柔道を核とした地域コミュニティーの維持活性化が推進出来ないか模索していきたいと思います。更にデジタル技術の活用も今後の柔道界には一層必要となって来ます。情報発信力の向上は新規会員の獲得だけでなく、協会運営の透明性向上にも寄与します。忘れてはならないのは、柔道クラブ・柔道協会が信頼される組織であることです。ハラスメント防止、暴力根絶、ガバナンスの強化など、時代が求める基準を守るために改革を進めることです。柔道は「道」であり人格形成を目的とする武道です。その理念に立ち返り子どもたちに誇れる環境を整えることが私たちの責務です。
最後に
3期6年の経験を通じて痛感したのは、柔道は人と人との絆によって支えられているという事実です。指導者・参加者・選手・保護者・支援者の思いが結集して初めて地域柔道は成り立ちます。人口減少という逆風の中でも、創意工夫と連携によって必ず道は開けます。愛媛の地に根差した柔道の灯を絶やすことなく、次世代へと確実に繋いでいく。その使命を胸にこれからも挑戦を続けて参ります。








