今月のことば 2025年7月

京都府柔道連盟会長に就任して

古川博史

はじめに

 令和7年3月、京都府柔道連盟の定期総会において、5期10年にわたり柔道の普及・発展に尽力された火箱保之会長が勇退された。その後任として、私が会長に就任することとなり、改めてその責任の重大さを痛感している。歴史ある京都府柔道連盟の会長職を受け継ぐにあたり、柔道の伝統と精神を守りつつ、未来へとつなげる役割を果す所存である。

京都における柔道の歴史

 京都府は、日本の武道文化が深く根付いた地域である。特に、明治期に京都市左京区の平安神宮敷地内に設立された大日本武徳会武道専門学校は、武道教育の中心的な存在であった。その名残として、現在は京都市武道センター内に旧武徳殿が残され、国の重要文化財に指定されている。当時、国策で全国各地に旧武徳殿と同様の道場が設置され、柔道の普及が加速した。

 京都では、町道場だけでなく、私学が柔道を授業に取り入れたことで、教育機関としての柔道の価値がより強調された。さらに、京都大学をはじめとする歴史ある大学が柔道の発展に寄与し、高専柔道の隆盛に貢献した。高専柔道は独特の技術体系を持ち、特に寝技を重視する戦術が確立された。こうした環境の中で、柔道は競技面だけでなく、人格形成の場としても発展し、社会のさまざまな分野で活躍する人材を育ててきた。

 柔道の精神である「精力善用」「自他共栄」は、単なる競技スポーツの枠を超え、社会に貢献する理念として根付いている。地域の道場や教育機関を通じて、多くの指導者が育成され、その代表的な存在として栗原民雄十段をはじめとする名立たる指導者が柔道の普及に尽力された。嘉納治五郎師範が示された「柔道修行の究竟の目的」を体現し、柔道の発展に寄与された先生方の志を継承することが、今後の柔道界の発展にとって極めて重要である。

継承と振興

① 形の講習会

 本府柔連では、「形」を重視した指導を継承しており、嘉納師範が説かれた「形で理合いを学び、乱取でそれを応用し、講義で知識を得て、問答で考える力を身につける」ことを念頭に置いて推進している。平成25年には京都で第5回世界柔道形選手権大会を開催して、それを機に日本代表選手を輩出している。今後も形の重要性を認識し、研鑽を重ねなければならない。

② 審判員講習会

 柔道指導者は、審判員としての資質を向上させることも重要な責務である。公正で明快な判定を行うことで、選手のみならず指導者や観衆にも信頼を与えることができる。正しいルールの理解と最新の審判規程の修得を通じて、将来のある選手を育成する環境が整えられる。

振興の課題

 本府の柔道界では、全国的に少子化が進む中、コロナ禍の影響を受け、町道場の減少、教員の働き方改革に伴う小学校柔道クラブの廃止、中学・高校の柔道部の減少、大学柔道部の縮小など、課題が山積している。この状況に対応すべく、各所属団体等と協力し、大会での選手募集、広報活動の強化、SNSを活用した情報発信、行政との協力によるスポーツイベントの開催などの施策を進めている。

 しかし、柔道人口の減少は依然として深刻な問題であり、抜本的な対策が必要である。柔道教育の充実、指導者育成の強化、競技力の向上、入門者拡大、柔道場施設の整備など、柔道を持続的に発展させるための取り組みをさらに強化していかなければならない。

未来への展望

 柔道は、単なる競技ではなく、社会に貢献する人材を育成するための武道である。本府柔連としては、柔道の精神をより広く普及させるため、伝統を守り、現代社会に適応した振興策を模索しながら推進しなければならない。

 今後も町道場や各学校の柔道部との連携を深め、柔道を通じて青少年の健全な育成を支援することが重要である。そして、柔道が持つ魅力や教育的価値である「精力善用」「自他共栄」の精神を社会に広めることで、地域の活性化にも貢献できるものと考える。

 柔道の未来につなげるため、本府柔連の皆様と協力しながら、一致団結して普及・発展に取り組んでいく所存である。

(京都府柔道連盟会長)

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